ひと:田月仙さん
デビュー30年在日韓国人のオペラ歌手
歌手活動30年の節目に「日韓文化交流基金賞」を受賞した。学術や芸術の分野で友好親善に尽力した韓国人を表彰する。日本政府委託の交流事業などを手がける同基金が設立されたのもデビューと同じ1983年。国家間には領有権などの問題が横たわり、「嫌韓」「反日」のもつれはあるが「歌で人々の心をつなげていく」と前を向く。
在日コリアン1世の両親は廃品回収から事業を起こした。朝鮮学校に通っていた16歳の時、父の会社が倒産。弾き語りのアルバイトをしながら音大の受験勉強に打ち込んだ。「ところが朝鮮学校は各種学校に分別され、当時はほとんどの音大が『受験資格がない』と門前払い」。受験を認めた桐朋学園短大に合格して道が開けた。
クラシックの世界では国籍や民族を問われることはない。だが、声楽家である前に「一人の在日コリアン」と足元を見つめた。東京でのデビューリサイタルから「アリラン」や「鳳仙花」など朝鮮半島の歌を曲目に加えている。
在日のオペラ歌手として北朝鮮と韓国の舞台に立った。日韓サッカーワールドカップ開催の記念公演では朝鮮王朝時代の古典小説を題材にしたオペラ「春香伝」のヒロインを務めた。現在は、在日コリアンや日本人、中国人らが参加する市民合唱団の指導も手がけている。「日本で生まれ育った私は、朝鮮半島と日本の二つの心を持つ」
これからも海峡を越えてアリアを歌い続ける。【明珍美紀】
【略歴】田月仙(チョン・ウォルソン)さん。東京都生まれ。活動の幅を広げるため93年、韓国籍を取得。12日に東京・紀尾井ホールで記念リサイタルを開く。56歳。
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